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パリのリトグラフ工房IDEM(イデム)。

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楽園のカンヴァス - 原田マハさん 著 -

マハさんに出会ったのは昨年、パリではもうすっかり夏が過ぎ去った9月終わりのことでした。
その数日前、眩しいほどに美しい友人、伊藤ハンスさんから連絡がありました。

"アトリエを見せたい、あきちゃんに紹介したい人がいるんです。"

小説家で、もともと美術関係のキュレーターをされていた方とのこと。
説明はそれだけだったけど、私がその人となりの美しさに一目惚れをしたハンスさんの紹介だったからか、少し緊張からそわそわしながらもお会いするのがとても楽しみだったのを覚えています。

もう半年以上前なのに、お二人が入り口から入って挨拶をして、どうやって工房を見せたか、どんな会話をしたか、どんな服を着ていたか、はっきりと覚えています。
忘れっぽい性格なのにも関わらず、不思議とその後大好きになる人たちとの出会いはよく覚えているんです。
そしてこのアトリエにとっても感動して、とっても楽しんで頂いていたのもとっても印象的。

その方は原田マハさん。

「カフーを待ちわびて」
「ランウェイ☆ビート」

など、映画化もされているようで、その作品を知っている人も多いかもしれません。
さらには森美術館立ち上げに深く関わり、かのMoMA(ニューヨーク近代美術館)でもキュレーターとしていらっしゃたようで、素晴らしい経験をお持ち。
(マハさんがどんな方なのかは後から知りましたが…。)

初めてお会いした時、マハさんに言われました。

"本当にこの工房が大好きなのね。それがすごく伝わってくる。"

って。
そして、

"あなたは大丈夫。とってもキラキラしていて素敵だから。"

って。
すーっごく嬉しかったその言葉は、少し元気がなくなったときの私のパワーの源の一つになりました。
そんなこと、初めて会った人になかなか伝えるのって難しいと思いませんか?
私もそんなマハさんの素敵なところ、見習いたいと思っています。
直接お会いしたことはまだ二回しかありません。
でもまた会いたいなぁ、と心からそう思わせてくれる人です。

前置きが長くなりましたが、小説家としてキュレーターとしてたくさんの経験と知識を持ったマハさんが新しい小説を出しました。

"楽園のカンヴァス"
(原田マハ著、2012年、新潮社)

マハさんが自分の経験と知識をもとに初めて書いた美術の分野をテーマにした小説。
”これはぜひ読んでほしいの。”
そう言うマハさんの、きっと挑戦的だけど確信的な、メッセージと自分自身の想いが詰まった一冊。
アートミステリーと分類されているけど、カテゴライズせず"読んでみてほしい"、そう言いたい本です。

この本を読んで、私はマハさんがより大好きになりました。
そして、自分の仕事がもっと好きになりました。
でも、自分はまだまだだなーなんても思っちゃったりしました。

この小説の中に一つの文章が出てきます。

"アートを理解する、ということは、この世界を理解する、と言うこと。
アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ。"

この意味を理解してください、とは言いません。
実際、私もまだここまで思えていません。
でも、アートって、一人の夢や強い想い、自然や愛情や恋、そして欲や権力やお金や社会状況や、戦争や宗教、宇宙や過去も今も未来もぜーんぶ含んでいます。
私を含め、その面白さに魅了されている人たちの中身を覗くことができる一冊。


"アートを理解する、ということは、この世界を理解する、と言うこと。
アートを愛する、ということは、この世界を愛する、ということ。"

何故こんなことが言えるのか。
その世界のヒントが隠されています。
共感は出来なくてもいいので、こんな面白い世界もあるんだなーと読んでほしいです。


以前も出会いについて書きましたが、この工房にはこんな素敵な出会いがたくさん詰まっています。

photo:ここでの出会いと笑顔。



追伸
マハさんは漫画家である私の叔母の漫画を読んでくださってたとのこと。
"口の中が♡なのよね"(漫画内の登場人物に関する)
と言っていました。
こんなご縁も面白く、色んな人が私に縁を運んできてくれてるんだなぁと、また自分のいる環境に嬉しくなります。


今もまた、プレス機の回る音をBGMにブログをアップするところです。
# by idemparis | 2012-04-06 19:06 | 作家/作品 | Trackback | Comments(1)

リトグラフ物語2

お待たせしました!
やーーーっとリトグラフとは何ぞや、というものを語っていこうと思います。
リトグラフ物語1の続き。


そもそもリトグラフとは版画の一種です。
版画は主に凸版、凹版、平版、孔版の四つに分かれます。

凸版は木版画に代表され、凸部分にインクが付くもの。
単純に言うと木版の"彫ってないところにインクが付き印刷”され、彫ったところが白く残ります。
余談ですが、木版画と言えば浮世絵。
この間の森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ)の歌川国芳展は溜息が出るほど感動しました。
photo:
歌川国芳展より引用

で、それと逆の技法が凹版。
エッチング(銅版画)に代表されますが、"彫ったところにインクが入り印刷"されます。
それぞれに複雑な細かい技術はありますが、私は詳しくないので説明は省きます…。
ここまでは物理的な原理なので想像もしやすいと思います。

だからなのか、しょっちゅう質問をされるのが、

"石版をどうやって彫るんですか?!"

です。
固いし重いし希少だし。
石版を彫るってどうやってやるのか不思議ですよね。

ここで出て来るのが"平版"です。
"平版"。
つまりここに凹凸はないのです!
ここでは"化学"的な原理が現れます。
それが"油と水の反発性"。
平版=リトグラフとはを"油と水の反発性を利用したもの"なのです。
photo:準備されてる石版さん

近からず遠からずなんですが、想像しやすいように一例を。
子供の頃、図画工作で絵を描いた時にクレヨンで描いた部分に水彩絵の具が乗らず、はじかれていたような記憶はありませんか?
その弾き合う原理を使っています。

石版の上に描く描かないで親油性と親水性の部分が生まれます。

石版の上に描いた部分→親油性=油性のインクが乗る
石版の上に描いていない部分→親水性=水が乗る=油性のインクを弾く

です。
それさえ分かってもらえればここからは写真でだ〜っとお見せしようと思います。
まず、出番を待つ石版たち。
か、かわいい...。

工程1:石版を用意
photo:すべっすべ。絵を描くために磨かれています。

備考1:石版に描く道具

備考2:トゥーシェと呼ばれる石版に描く専用のインク(墨のようなもの)

工程2:石版に描く
石版に描くと石版の表面にある穴(ミクロ単位)に油性分のインクが浸透していきます。
このミクロ穴の集合体が繊細な表現を生み出します。

工程3:職人が技術を施すことで親油性部分と親水性部分が石の表面に定着

工程4:プレス機に設置

工程5:描いたインクを取り除く(透明に絵が見える!)

工程6:試し刷り〜本刷り

で、印刷後の石版はまた表面を磨くと再利用出来ます。
こんな感じ。
photo:機械で(左)、手作業で(右)磨きます。

だからほら、リンチさんお気に入りの石はシリーズに何度も現れます。
作品:"I Fix My Head", David Lynch, 2010年
作品:"System Over City", David Lynch, 2010年
作品:"Flower", David Lynch, 2011年

実際はこんな感じ。
かなりかわいいです。
これは特に個性の強い石版なので、現在はリンチさん専用となっています。

ピカソやマチスが制作していた工房...。
もしかしたら彼らが使っていた石かも知れません。
そう思うと不思議...。
数十年前、彼らがこの石版の前に立ち、絵を描いていたわけですから。
photo:石版の前にて、マチス(左)と前オーナーのフェルナン・ムルローさん(右)、ここより引用。

photo:当時と変わらない今日の石版たち


でも...
難しい!
すごく難しい!!
文章での説明ってものすごく難しい!!!
なんとなく分かって頂けましたか?
全然伝わらないような気がして不安です...。

どうして今までリトグラフの工程について書かなかった(逃げていた)か、今回分かりました。
説明って、人の感情とかが必要ないんですね。
どーうも義務的になってしまいます。
自分じゃないみたい。
授業みたい。
つまらない。

ここにはたくさんの技術や歴史が詰まっていますが、一番詰まっているのは人の想いや、ここの道具たちが時を重ねて得てきた温かみです。
それが積み重なったのが技術や歴史。
本当はここの温かさ抜きに説明なんて出来ないんです。
だから興味を持ってくださる方にはやっぱり直接伝えたいです。
そしたらまるで演劇舞台の案内人のように愛情を込めて、ここの温かさや人の想いを伝えられるのに。
そしたらここはまるで19世紀。
芸術の都、パリが舞台のあなたが主役の物語です。

文章でこの空気を届けるのは難しいけど、マイペースに伝えて頂ければと思います。
このつま〜らない前半の説明部分すら楽しく読んでもらえたのなら、次はここにも足を運んでほしいなと思います。

続く...。


追伸
先週からDavid LYNCHさんが来られています!
工房はひっきりなしに人が来て、春の訪れとともに賑わいも増しています。
少しばたばたとした日々が続きますが、この環境に日々幸せを感じているところです。
photo:おとといプリントしたばかりの新作。もうすぐギャラリーにもお目見えします。
# by idemparis | 2012-03-30 02:59 | リトグラフ | Trackback | Comments(3)

今日のイテム。 - 白黒写真編 -

イデム(IDEM)はリトグラフ工房、
イテム(ITEM)はギャラリーです。

オーナーは同じですが、一応会社としては別々。
IDEMは男っぽくて、ITEMは女性っぽいので、勝手に男らしい兄と美人の妹だと思っています。

実は私の籍はギャラリーのほう。
とは言え住所も隣同士だし、結局私も両方の仕事をやっているので仕事内容によってどちらかにいるって感じです。

昨日IDEMのほうの写真を載せたので、今日はITEMの紹介をしたいと思います。

入ると奥はこんな感じ。

お客様が来るとここでお話ししたり、ふっと休まれたり。
壁にかけてあるリンチさんの最新作、2011年のシリーズを見ながら休息なんて素敵な時間です。

今はホテルLUTETIAにDevid LYNCHスイートルームが期間限定で出来、そちらにお貸ししているのですが、最近までこの彫刻がありました。
photo:デヴィッド・リンチ彫刻
実はこの靴、クリスチャン・ルブタンのもの。
しかもオートクチュール!
リンチさんが絵を描いたキャンバス生地でルブタンがこれを作りました。
うっとりするほど美しく、でも毒がある。

よく見ると履けないヒールの高さ。
サイズも34と華奢なサイズ。
私は勝手に、David LYNCHワールドの中のシンデレラが落していった靴だと思っています。
それをリンチさんに伝えたら"Formidable!"と笑っていました。

私の定位置はここです。
この椅子。

ちょこんとアジア人の私が座っています。
ここの視界はいつもこう。

幸せな空間です。

外から見るとこんな感じ。


夜になると入り口のガラスが鏡のようになってとってもきれいです。

お客さまがいないときはこうやって写真を撮ったり本を読んだり、プロジェクトの資料を作ったりしています。
忙しいーとかいいつつも、紅茶を工房から持ってきて、こんなゆったりした贅沢な空間で贅沢な時間を過ごしています。
# by idemparis | 2012-03-04 01:10 | item editions | Trackback | Comments(1)

今日のイデム。 - 白黒写真編 -

今日はリトグラフの技術と工程を写真を見ながらじっくり説明したかったんですが、
午後にぱしゃぱしゃ撮った写真が何だか雰囲気あるものになったので、載せてみたくなりました。

白黒パワーってすごい。

所詮素人写真なのですが。
この工房が古いからかな、白黒写真がしっくりきます。

白黒だと昔の写真みたいですが、写っているもの全て昨日も今日も明日もちゃんと動いているもの。
まだまだ現役さんたちです。

photo:訪問者を出迎える石版と過去に作られたポスターたち。

photo:プレス機の向こう側には壁全体が本棚のよう。これは全部石版!

photo:その奥では職人たちが仕事中。

photo:プレス機と…

photo:職人の道具たち。

photo:石版の準備をする職人と、

photo:作家たちが使う、絵を描く道具。

photo:梱包まで職人たちの手によって。

photo:William Kentridgeさんも気に入ったエンボスを付ける道具


ここで生まれる色んな色が大好きなので、あまり白黒の写真を撮ることはないんですが、違う視点で見てもらいたかったので載せてみました。

明日はギャラリーのほうを。
来週はやっと!リトグラフとはどういうものなのかお話ししていきたいと思います。

続く...



# by idemparis | 2012-03-03 02:19 | idem | Trackback | Comments(0)

今日のイデム。

わわっ。

わわわっ。


今、今日の午前と午後の写真をパソコンにとりこんだら.....






ト、トリコロールだった....。
これだけでなんだかとりあえずハッピーです。
明日もいい日になる予感がしています。


ちなみに、職人の一人クリスチャンはいつもブルーの作業着を着ています。
こんな感じに...

photo:作業中のクリスチャン

青を刷っているところを発見すると、

"わーいわーい! おんなじ色だー!"

と言いながら、私はカメラを撮りにいき、彼と青に染まったプレス機の写真を撮ります。
少しうるさそうにされるのですが、いいんです。
私はここの一番の下っ端。
ちょっとくらいやんちゃじゃないと、と思ってます。

ある日、クリスチャンが青い箱のタバコを吸っていて、ふと見ると青いペンがポケットに刺さっていたので、

”全部青だね〜”

ときいてみました。
そしたら何も言わずにポケットから青いライターを出して見せてくれました。
しばらくして、カッターを借りにいったら、青いカッターでした。

"青を集めてるの?"

ときいたら、

"偶然"

と、クリスチャンは答えました。
そういえばクリスチャンの目も、透き通ったきれいな青でした。

photo:休憩中のクリスチャン

思い出すとついつい"にやっ"と笑ってしまう、そんな工房での一場面です。


今思い出しても、やっぱりおかしい。
やっぱりクリスチャンは青を集めているんじゃないかと、ひそかに思っています。
# by idemparis | 2012-03-01 02:27 | idem | Trackback | Comments(0)
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