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パリのリトグラフ工房IDEM(イデム)。

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idem物語6 -石版-

今日は石版のお話。

以前お話ししたように、ここでは主にドイツ産を使用しています。
フランス産よりもきめが細かく高品質。
絵を描く直前の磨きあげた石版はさらさらすべっすべ。
ず〜っと触っていたいほど。
表現すると、冷たい赤ちゃんのすべすべほっぺたって感じです。

idem物語6 -石版-_e0246645_37265.jpgphoto:描かれる前の石版

石は50cm×60cmくらいでも数十キロあります。
運ぶのも大変ですが、アルミニウム版の何倍もの技術を必要とします。
まず最初に必要な技術が石を磨くこと。

idem物語6 -石版-_e0246645_2283178.jpgphoto:磨く工程

研磨砂を間に入れて、二枚を重ねお互いに磨き合うような感じです。

idem物語6 -石版-_e0246645_2312885.jpgphoto:磨く工程

この砂もフランスで取れる天然のもの。
ふるいにかけられた粒は均一、超微細な砂です。

小さい石版は手で磨きます。

idem物語6 -石版-_e0246645_2325379.jpg
この機械も、この砂も、今となっては希少なもの。
この時点で既に、多くのアトリエが石版を扱わない理由が分かります。

一、重い
二、手間がかかる
三、時間もかかる
四、材料が希少...

どうして石版を扱わないのか、いくらでも言えそうなほど。

それでもこの工房では出来るだけ石版を推奨しています。
どうしてかって、それは作品を見てもらえれば分かってもらえるかと。

なんたって、ほんっっとうに美しい!
石版だからこそ生まれる美しさ、ここにしかない美しさがあるんです。

石版には"トゥッシュ"と呼ばれる溶き墨で描きます。
この墨が乾いていく工程が石版の表面に残っていきます。
その表情が本当に美しい。
他では見ることの出来ない作品の表情だと思います。
そしてこのトゥッシュの表情は、気温や湿度、季節や気候で若干変化します。
つまり作家にとってもコントロールしきれない域が生まれるということ。
それはどれだけ経験を積んだ作家にも同じことです。
観る側にもとても魅力的な表現なのですが、作家にとっては一度ハマると抜けられない石版のあまりに魅力的な世界。

この夏、資生堂で個展をされていた辰野登恵子さんもその一人。

"石版って紙に描くより気持ちがいい!"

この言葉がとても印象に残っています。
あれだけたくさんの素晴らしい作品を残してこられている辰野さんも石版制作は今回が初めてのことでした。
この作品は辰野登恵子さんの作品。

idem物語6 -石版-_e0246645_3262174.jpgphoto:辰野登恵子"AIWIP-19"

実物を見せたいっ!と嘆きたいほど、実物は何倍も素敵なんです。

この作品の枠のようにも見えるのは石版そのままの形。
その点も石版の面白さです。
石の欠けも個性。
個性だって隠さず美しい表現の一つになります。
石との出会いも一期一会。
それすら作家は楽しみます。

作家が描いた後は職人の仕事。
いくつもいくつもある工程。
作品によって異なる技術。
それらを熟練の職人たちが見極めて調整します。

こうやってこのアトリエで描かれた作品は、
idem物語6 -石版-_e0246645_34312.jpg

職人の手で版になり、
idem物語6 -石版-_e0246645_354314.jpg

マシーンに設置されます。
idem物語6 -石版-_e0246645_39303.jpg

こうやって作品を生み出した石版さんはまた第一の工程、磨きに移ります。
磨かれた後、描かれた絵はきれいに消えてしまいます。
一度消したらもう二度とプリントすることは出来ないけど、作品としてここに残ります。
その儚さも石版の美しさ。
そうしながら石版はすこーしずつ、すこーしずつ薄くなっていきます。
その度にいい作品たくさん生み出してるんですよね。
だんだん薄くなりまた土に帰っていく石版。
それもまた、美しいと思いませんか。

作家のみなさま、一枚作ってみてはどうですか。
ピカソやマチスが製作した工房。
もしかしたら彼らが使った石版かもしれない。
その上に描くって夢見たいですよね。
きっと今まで知らなかった、感動する表現がここにあること、私は確信しています。

続く...。
by idemparis | 2011-12-06 03:30 | idem